シンギングボウルの音を、どうしても再現したかった。
でも、何度作っても痩せるのです。
本物のボウルにある、あの厚みと、揺れながら伸びていく響き。
それが出ない。整数倍の倍音をきれいに重ねているはずなのに、逆に細くなる。
原因が分かったのは、ずっとあとでした。
犯人は、自分の書いたコードでした
倍音を足すとき、わたしは2つの層を使っていました。
- ベースとなる音の層
- ボウルらしさを足すための倍音の層
このとき、両方が同じ周波数の倍音を鳴らしていたのです。
1倍・2倍・3倍・4倍——4本が完全に重複していました。
同じ周波数の音が2つ、わずかに位相をずらして鳴ると、どうなるか。
打ち消し合います。
実測すると、最大で -9.7dB ずれていました。
「厚みを足すために重ねた倍音」が、「音を削る原因」になっていたわけです。
しかも、たちが悪いことに、
打ち消しの深さは、両方の音量が揃うほど深くなる。
丁寧にバランスを取ろうとするほど、消えていく。
道理で、頑張るほど痩せるはずでした。
もうひとつ見つかった、リバーブの穴
同じ調査の途中で、別の問題も出てきました。
リバーブの深さを -16 に指定していたのに、
実際には +13〜+16dB のウェットがかかっていたのです。
指定と実際が、30dB近くずれている。
残響がドライ音より大きい状態で、そのまま出していました。
原因は、残響を作る処理で「一番大きい一点」だけを見て正規化していたこと。
音全体のエネルギー量は、野放しになっていました。
| 設定 | 実際の誤差 |
|---|---|
| meditation | +29.2dB |
| zen_garden | +28.1dB |
| cathedral | +30.8dB |
特定の設定だけの問題かと最初は思いました。
調べてみたら、全部壊れていました。
スマホで聴くと、さらに削られていた
3つ目は、いちばん気づきにくいものでした。
左右の残響を作るとき、片側をもう片側の遅延コピーで作っていました。
ステレオで聴く分には広がりが出て、悪くない。
ところがスマホのモノラル再生では、左右が足し算されます。
同じ音の遅延和は、櫛の歯のように特定の周波数を削る干渉を起こします。
実測したところ、白虎の528Hzが -8.9dB 削られていました。
イヤホンで確認しているときは気づけない。
スマホのスピーカーで聴いて初めて分かる種類の問題でした。
公開済みの作品は、作り直していません
正直に書きます。
これらの問題を見つけたとき、既に出している作品にも影響が及んでいました。
四神シリーズのいくつかは、指定と違うウェット量のまま公開されています。
でも、作り直しはしませんでした。
理由は2つあります。
ひとつは、聴いて破綻していなかったこと。
数値上はズレていても、結果として成立している音になっていました。
もうひとつは、直すと別の音になってしまうこと。
すでに聴いてくださっている方がいる音を、後から差し替えるのは違うと思いました。
だから記録だけ残して、新しく作るものから直すことにしました。
まだ直っていないこと
全部が解決したわけではありません。
残響の中に、特定の狭い周波数帯だけが不規則に持ち上がったり沈んだりする現象が残っています。
純音を鳴らすと、その日の設定次第で -11.9dB から +7.1dB まで振れる。
平滑化して潰そうとしたら、今度は残響の時間が 1.10秒から 2.52秒に伸びてしまい、
まったく別の空間になってしまいました。これは失敗でした。
今は、残響を深くかけすぎないという運用で回避しています。
根本解決ではありません。分かった上で、そうしています。
測るときに学んだこと
このバグを追いかける過程で、測定について2つ学びました。
ひとつの設定だけで測ってはいけない。
たまたま選んだ1回の設定で測ると、本来3dBの傾斜が、±10dBの揺れに埋もれて見えなくなります。
左右を足して測ると、符号が逆に見えることがある。
モノラルで測ったとき、実際とは反対の結論が出ることがありました。
耳で聴いて「なんか変だ」と思ったものは、たいてい本当に変です。
ただしどこが変なのかは、測らないと分かりません。
音を作るというのは、思っていたより地味な作業の積み重ねでした。
きれいな音を思いつくことより、
「なぜこの音は思ったとおりにならないのか」を突き止めることに、
ずっと多くの時間を使っています。
それでも、直ったときの音は、ちゃんと良くなります。
※本記事は健康・医学的な効果を保証するものではなく、医療の代替となるものではありません。心身の不調がある場合は、医師などの専門家にご相談ください。


