【制作ノート】聞こえない帯域に何が入っているか|自作528Hz音源3本のスペクトルを実測した

What is in the band I cannot hear

前回の制作ノートで、自分の耳は有線イヤホンで13,000Hzまでしか聞こえないと分かり、「聞こえない帯域は耳ではなく計測で確かめる」と書きました。今回はその計測です。対象は、公開中の自作528Hz音源3本のマスター音源(YouTubeに上げる前のWAVファイル、48kHz)です。

測り方

それぞれの音源から、等間隔に24か所、各20秒を取り出し(8時間の音源でも全体から均等に抜く)、左右それぞれの周波数分布を求めて平均しました。方法はWelch法、65,536点、分解能0.73Hz。道具はffmpegとPython(NumPy/SciPy)で、ラウドネスはffmpegのebur128で全長を測りました。3本とも同じ手順です。

自作528Hz音源3本の長時間平均スペクトル。13,000Hzより上を影で示す
3本の長時間平均スペクトル。横軸は対数、縦軸は各トラックの最大成分を0dBとした相対値。影の部分(13,000Hzより上)が、作り手自身には聞こえない帯域。

結果

Pure 3時間Deep Sleep 8時間虫の音 1時間
基音(528Hz)の実測527.99Hz528.00Hz528.00Hz
いちばん強い成分(±3Hzのエネルギー)528Hz264Hz(528Hzより+3.3dB)264Hz(528Hzより+1.0dB)
2,000Hzより上の割合0.00001%未満0.0045%0.26%
8,000Hzより上の割合0.00001%未満0.00001%未満0.0081%
13,000Hzより上の割合0.00001%未満0.00001%未満0.0018%
13,000Hz超のいちばん強い点(最大成分との差)−88dB−109dB−81dB
ラウドネス(統合)-22.0 LUFS-14.0 LUFS-14.0 LUFS
ピーク-19.6 dBFS-7.5 dBFS-6.2 dBFS

割合は、音のエネルギー全体に対するその帯域の割合です。dBは10dBで10倍、20dBで100倍の差を表します。

1. 「Pure」は本当に純音だった

3時間のPureは、527.99Hzの正弦波が1本あるだけでした。倍音は、いちばん大きいものでも基音より92dB低く(2倍音は101dB低い)、2,000Hzより上の成分は全体の0.00001%未満です。残っているのは16bitの量子化ノイズの床で、これは「無音」を録音しても出る量です。

2. 「528Hz Deep Sleep」でいちばん強いのは264Hzだった

8時間の睡眠用音源には、528Hzの下に1オクターブ下の264Hzが重なっています。実測では264Hzのほうが528Hzより3.3dB強く、タイトルにある528Hzそのものは2番目でした(2倍音の1,056Hzはさらに20dB下、2オクターブ下の132Hzは528Hzより36dB低い小さな成分です)。「528Hz」と名のつく音源でも、耳にいちばん強く届いているのはそのオクターブ下、ということがあります。2,000Hzより上は0.0045%、8,000Hzより上は0.00001%未満で、13,000Hzより上は最大成分より109dB低い点が最高でした。

3. 「虫の音」の虫は、録音ではなく合成です

この音源の虫の音は、野外の録音ではなく、振幅変調で合成したものです。動画の説明文にも「フィールド録音・サンプル素材は不使用」と書いていますが、この記事でも改めて明記します。合成した虫の音の成分は4,400〜4,700Hzに集まっていて、基音より約37dB低い位置にあります。この音源でも、±3Hzのエネルギーで見ると264Hzが528Hzと並んでいます(差+1.0dB)。3本の中で唯一、13,000Hzより上にわずかな成分(0.0018%)がありますが、これは虫ではなく、背景に敷いたピンクノイズの層の裾です。

結論:この3本には、聞こえない帯域に「ほぼ何も入っていない」

13,000Hzより上は、3本とも最大成分より81dB以上低く、エネルギーの割合では最大でも0.0018%でした。聞こえる・聞こえない以前に、そもそも入れていなかったわけです。理由は作り方にあります。この3本は楽器の録音ではなく、正弦波の重ね合わせ(と、ノイズの層)で作っているので、設計に書いていない高い帯域は生まれません。

前回「聞こえない帯域を聞こえないまま届けていないか」と心配した件は、少なくともこの3本では杞憂でした。ただし、楽器の録音やリバーブを使った音源では事情が変わります。それは別の音源で改めて測ります。

この計測で分かっていないこと

  • YouTubeで再圧縮された後の音。測ったのはアップロード前のマスターで、視聴者に届く音はYouTube側で再圧縮されたものです。そちらは今回測っていません。
  • 全時間ではない。各音源から24か所×20秒(8時間の音源なら全体の約1.7%)を抜いた平均です。ラウドネスだけは全長を測っています。
  • ピークの高さには±1dB程度の誤差があります(周波数が解析の格子にぴったり乗るかで変わります)。表の「強い成分」の比較は、±3Hzの範囲のエネルギーで計算しました。

読む方へ

「528Hz」と書いてある音源の中身は、同じではありません。純音1本のものも、オクターブを重ねたものも、ノイズや環境音を足したものもあります。この記事の3本も、それぞれ違います。音の高さそのものを確かめたい方は周波数ラボで、自分の耳の上限を知りたい方は耳年齢テストで試せます。528Hzという数字の由来は528Hzとは?にまとめています。

※本記事は健康・医学的な効果を保証するものではなく、医療の代替となるものではありません。心身の不調がある場合は、医師などの専門家にご相談ください。