「8時間の音源」と聞いて、どう作ると思われるでしょうか。
8時間ぶん、通しで作っていると思われるかもしれません。
実際は違います。
2分半の音を、258回つないでいます。
なぜ通しで作らないのか
理由は単純で、現実的でないからです。
8時間ぶんの音を一度に合成しようとすると、
計算量もファイルサイズも膨れ上がり、少し直したいだけで作り直しになります。
「もう少しリバーブを浅く」と思うたびに8時間ぶんの再計算が走る。
これでは何度も試せません。
だから短い種を作り、それを繰り返して長さを作る方式にしています。
- 種の長さ:150秒(2分半)
- それを繰り返して:8時間
- 回数にして:約258回
種が良ければ8時間が良くなる。種を直せば全部直る。
問題は、つなぎ目
ただし、この方式には避けられない弱点があります。
繰り返しの継ぎ目です。
音を単純に並べただけだと、その瞬間に波形が急に変わります。
結果、「プツッ」というクリック音が出る。
これが8時間で258回鳴ることになります。
眠りかけた人を、258回起こす音源。
最悪です。
つなぎ目をどう消すか
対策は3つ重ねています。
① 等パワークロスフェード(8秒)
前の終わりと次の始まりを、8秒かけて重ねながら入れ替えます。
このとき単純な音量の足し算にすると、重なった瞬間だけ音が小さくなって聞こえます。
人間の耳は音の大きさをエネルギーで感じるので、
音量を半分ずつ足すと、真ん中がへこむのです。
なので、重なりの途中でもエネルギーが一定になるカーブを使います。
② 継ぎ目に自然音を重ねる
それでも完全にゼロにはなりません。
そこで継ぎ目のあたりに、波の音などの自然音を薄くかぶせています。
段差そのものを消すのではなく、段差に気づかせないという考え方です。
自然音は元々ゆらいでいるので、多少の変化を吸収してくれます。
③ 実測で確認する
最終的には数値で確かめます。
継ぎ目の前後で、波形がどれだけ急に変わっているか。
実測したところ、その飛びは 約0.012 に収まっていました。
この程度であれば、クリック音としては聞こえません。
冒頭のフェードインを忘れて、ひやりとした話
繰り返しの処理には、末尾をフェードアウトさせる機能は入っていました。
けれど冒頭のフェードインは入っていませんでした。
つまり、再生した瞬間に音がいきなり始まる。
夜、静かな部屋で再生ボタンを押した人には、それだけで驚きになります。
いまは、頭に10秒のフェードインを別途かけています。
こういう「言われてみれば当たり前」のことが、実装では抜け落ちます。
音量をどう決めるか
もうひとつ、長尺で神経を使うのが音量です。
音楽配信の一般的な基準に合わせると、睡眠用にはやや大きすぎます。
夜、小さな音量で流す前提なので、基準よりも静かめに仕上げています。
大きい音を小さくして聴くのと、
最初から静かに作った音を聴くのとでは、質感が変わります。
前者は、小音量にすると細部が潰れて、こもって聞こえます。
種が2分半である理由
なぜ150秒なのか。
短すぎると、繰り返しに気づかれます。
30秒の音を960回聞かされれば、さすがに「またこれか」と分かります。
長すぎると、作り直しが重くなり、試行回数が減ります。
2分半あれば、繰り返しの周期として意識に上りにくく、
かつ何度でも作り直せる。この折り合いの結果です。
長時間の音源は、手を抜いて長くしているのではありません。
短い時間を丁寧に作り、それを気づかれないようにつなぐ。
その「つなぐ技術」に、思っていたより多くの時間を使っています。
眠っている人には、一度も気づかれないのが理想です。
うまくいっている限り、この工夫は誰にも聞こえません。
※本記事は健康・医学的な効果を保証するものではなく、医療の代替となるものではありません。心身の不調がある場合は、医師などの専門家にご相談ください。


